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『ジャクソン・ブラウン』(1972年) [音楽]

寝コケてしまいました。

せっかくおいでくださってるので、また本館より蔵だしいたします。

申し訳ない。



最後に出てくる「コーヒーカップ」。

僕に何か贈り物をしようとすると、どんな物がいいのかわからなくて困るのだろう。

そのころ、僕は女の子からコーヒーカップをもらうことが多かった。

贈った本人はもう覚えていないのだろうが、どのカップも壊れずにいるので、僕は遠い日の女の子たちの顔を思い出すことがあるのだ。



[2003年3月19日付日録]--------------------------------------

[精神のリレー]



「ETV特集 死霊」の続きを観る。

これを観るのは深夜がいい。

アナウンサーは「プロジェクトX」でおなじみの国井雅比古さん。

「死霊」の声の方がずっと落ち着いていていい。



埴谷さんは浴衣というより寝間着姿で熱弁をふるっていたが、今回はお洒落をして文壇バーへ。

アルコールをあおりながら、精神のリレーということを語る。

昔の人の本を読んでわかるということは、その人と友達になれるということ。

その友達の精神を次代につないでいく義務が私たちにはあるのだと。



遠い昔に死んでしまった人達とつきあうのは、気持ちのうえでは楽なことだ。

もうこの人達は、他人を裏切ったりしないから。

生きるということは、変わるということでもある。






僕はとにかく党派が嫌いだった。

口だけは革命を目指してセクトのために動くことは、紺のスーツを着てネクタイを絞め企業を回ってペコペコすることと、僕の目には同質に見えた。

実際、威勢のいいことを言っていたいっぱしの活動家が、妙にきちんとした身なりをして就職活動に励むなどという変身を見掛けて、欺瞞だと思った。

人は変わる。

あたりまえのことだ。

でも、そんな変わり方は本当にかっこ悪いと思った。



80年代に入る前に、新左翼系とされる雑誌がいくつか創刊された。

その中に、新左翼の運動と思想に疲れて今で言う「癒し系」に走ったと、世間的に評価されている雑誌があった。

千秋がその編集部で仕事をするようになり、僕もそこへ顔を出すようになった。

世間の評価とは違い、埴谷さんの言う「社会革命だけではだめだ、存在の革命が必要だ」に近いのではないかと感じた。

僕は別の出版社に勤めるようになったが、帰りにはその編集部に寄って、フリースペースでごろごろしていた。



千秋が少しずつ僕から離れていくのは、よくわかった。

嘘を積み重ねるのが見えた。

きっと彼女は引き止めてほしかったのだろう。



でも僕はそんな努力をする気が失せていた。

妻子ある男性は千秋ではなく、妻と生まれたばかりの娘の方を選んだ。

そんな結果は千秋も知っていたはずだ。



千秋が手首を切った時、僕が呼ばれた理由がわからなかった。

以前はおなじみだった部屋で大量に湯が沸かされ、優しい表情をした人達が集まっていた。

そんなことで死ねるわけがないし、今更自分が呼ばれることが不愉快だった。

腹立たしく思いながらも、元気のない千秋を見ると涙が出た。



その夜、僕を含めたみんなはどうしたのだったろうか。

帰ったのか、泊まったのか、まったく覚えていない。

ただ黙ってにこにこしてみせていたことだけ覚えている。



僕は毎晩のように誰かと酒を飲んでいたのだが、自分が何をしたのかわからなくなったのは、そのころの一度だけだ。

ザ・タイガースの「廃墟の鳩」を歌って、そのまま眠ってしまったそうだ。

人は誰も悪いことを覚えすぎたこの世界。



千秋は大学を中退し、それからセクトの活動家になった。

ローザ・ルクセンブルクの名を口にするようになり、人民戦線を唱えた。

それなら内ゲバはやめろよと、僕は言った。

高田馬場の駅前に呼び出され、セクトの活動家を紹介された。

千秋はセクトの拠点となっている大学に入りなおし、そこで名を知られるようになった。



千秋が完全に姿を消した後も、僕は仕事帰りに雑誌の編集部に寄った。

千秋の友達だったサトと一緒に夜歩くようになった。

まだ仏文科の学生で、僕以上に愛想がなかった。

誰かが「……に行こうよ」と言うと、「行けば」と答えてしまうような女の子だった。



小さくて細いので初対面の人はなめてかかることが多いのだが、そういうやつは決まってサトにひどく不愉快な思いをさせられることになる。



でも、僕と東京の夜空を見上げる時は素直だった。

自分の容姿にコンプレックスを持っているようだったが、僕に見せてくれる、はにかんだ笑顔はかわいいと思った。

実際は近づきがたいだけで、男の子には人気があった。



サトは一見虚弱体質で食が細そうなのだが、埋め立てられる前の飯田堀にあったステーキハウスで、安いホルモン焼きを食べるのが好きだった。

吉祥寺の「のろ」で焼酎を飲んだ。

サトとは毎晩静かにデートをしているようなものだった。



サトの下宿がある中野のスナックで飲んでいると、ジャクソン・ブラウンがかかった。

力のない声がかえって誠実さを感じさせた。

西海岸といえばニール・ヤングぐらいしか興味がなかったのだが、いいなと思った。

日ごろは冷静なサトが、無邪気に笑って喜んだ。

ジャクソン・ブラウンについて、ファンクラブの会報に記事を書くようにサトから頼まれた。

サトはファンクラブの会長をしていて、来日時には握手をしたのだと嬉しそうに言った。

結局記事は書けなかったのだが、僕はその時よりも今の方がずっとジャクソン・ブラウンが好きだ。



サトは自分には大きすぎるからと、弟の古着を僕にくれた。

そのダンガリーシャツは、確かに僕にぴったりだった。

コーヒーカップと違って、もうそのシャツはない。



Jackson Browne(1972)

1. Jamaica Say You Will 2. Child in These Hills 3. Song for Adam 4. Doctor My Eyes 5. From Silver Lake 6. Something Fine 7. Under the Falling Sky 8. Looking into You 9. Rock Me on the Water 10. My Opening Farewell












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コメント 8

izumatsu

TITLE: Re:『ジャクソン・ブラウン』(1972年)(11/11)
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★幻泉館主人さま

『ジャクソン・ブラウン』、いいよねぇ。
と言っても、ぼくはこのアルバムは持っていないのだが。
いつまでたっても青臭い、しがらみぎりぎりからまりまくるおとなの世界にどっぷり浸からざるをえなくなっても、どこか書生っぽさから抜けきれない。
そんな“おとな”が理想だったんだけどなぁ。

このアルバムからHPの“うっすらお顔”は抜いたのね。
あの顔を「幻泉館主人」と思われてる方も多いのではなかろうか? 「まぁ、すてき」、とか。

皆さま、幻泉館のご主人は、こうしたタイプのお顔の造作ではありません。
でも、雰囲気は似てるよね。
by izumatsu (2003-11-11 08:21) 

幻泉館 主人

TITLE: Re:Re:『ジャクソン・ブラウン』(1972年)(11/11)
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izumatsuさん、おはようございます♪

もちろん"Late for Sky"が傑作だとは思うんだけど、このアルバム好きなんですよ。
たとえば奥さんに自殺されちゃったりなんてのはもっと後のことなのに、最初からそんな悲しみを抱えているように聞こえちゃったりする。

> 皆さま、幻泉館のご主人は、こうしたタイプのお顔の造作ではありません。

し~っ。
あんまり言わないでおこうね。
美しき誤解ということもありますので。
by 幻泉館 主人 (2003-11-11 08:33) 

pglove

TITLE: Re:『ジャクソン・ブラウン』(1972年)(11/11)
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おばんです。
私も夜中によく目がさめます。風邪ひかないようにきをつけてくださいね。


ここの日記読むにくるのとっても好きなんですけど。
ものすごーくいやなんですよね。いい意味で。
大学生のときによく読んだ作家やアーティストたちの名前がちらほら。学生が終わると同時になんだかばたばたした毎日でたいした読書もせずに日々をすごしてきてから。
 忘れかけていた何かを発見できる喜びと同時に今は学生のときのようにそれらの本をよみふけるだけの時間があまりないが悲しく感じるのです。

それではまた
by pglove (2003-11-11 17:36) 

幻泉館 主人

TITLE: Re:Re:『ジャクソン・ブラウン』(1972年)(11/11)
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pgloveさん、おじんです。
(すでに冗談がおやぢ)

どうもこのごろ睡眠が細切れなんですよ。
それで、枕許のノートPCを開いて、もわぁっとサーバの様子をチェックしたり。
運動不足はありますね。
職場まで歩くと30分。
本当は歩いた方がいいなあ。

>忘れかけていた何かを発見できる喜びと同時に今は学生のときのようにそれらの本をよみふけるだけの時間があまりないが悲しく感じるのです。

読書の時間は私ももっと欲しいですねえ。
車に乗るようになったので、電車の時のように本を読んだり歩いたりが減りました。

楽天広場ではなりゆき上「懐かし屋」さんになっちゃってますけど、もちろん日常生活は今を生きてますよ~。
(ホントかしら)
by 幻泉館 主人 (2003-11-11 17:50) 

ジョンリーフッカー

TITLE: Re:『ジャクソン・ブラウン』(1972年)(11/11)
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インドで亡くなった友達が「スティ」好きでよく聴いてました。彼が死んだとき首都高速でこの曲をかけて号泣
そのためもあって、一生聴き続けるアルバムとして「ラニング・オブ・エンプティ」があります。
by ジョンリーフッカー (2003-11-11 20:41) 

幻泉館 主人

TITLE: Re:Re:『ジャクソン・ブラウン』(1972年)(11/11)
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ジョンリーフッカーさん、こんばんは♪
『ラニング・オブ・エンプティ』、いいですね。
特にその「ステイ」に曲が変わるところ。
心がなごみます。
by 幻泉館 主人 (2003-11-11 21:40) 

h・kitchen

TITLE: Re:『ジャクソン・ブラウン』(1972年)(11/11)
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こんばんは。
そうそう、ジャクソン・ブラウンのスペルは最後に
eが付くんですよね。
ゆったりとした歌声ですよね・・・

昨日はこちらへのメッセージをありがとうございました。
感謝感謝です。
そうそう、メグ・ライアンも蠍座の女です。(笑)
by h・kitchen (2003-11-12 01:29) 

幻泉館 主人

TITLE: Re:Re:『ジャクソン・ブラウン』(1972年)(11/11)
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h・kitchenさん、こんばんは♪

> 昨日はこちらへのメッセージをありがとうございました。

あちこち覗いて回るくせに、外では筆不精で、義理を欠いております。
いつも読み逃げ申し訳ございません。

> そうそう、メグ・ライアンも蠍座の女です。(笑)

あ、なんだか嬉しいです♪
by 幻泉館 主人 (2003-11-12 01:38) 

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