夜への長い旅路 CHRONICLES #231 [ボブ・ディラン『クロニクルズ』]
月の光の中で我に返ったディランの耳に、オートバイの走る音が聞こえます。
窓を開けると、石榴の花の香りがします。
これが"Political World"を一気に書き上げた時の思い出です。
ディランはこの曲で、その数年前に書いた"Clean-Cut Kid"を思い出すのだそうです。
"Clean-Cut Kid"の中にも、ディラン本人がいないのだと言っています。
"clean-cut"というのは、「きちんとした」「身だしなみのよい」ぐらいの意味です。
「さわやかな青年」と言う時の「さわやかな」ですね。
中川五郎さんの訳では「まじめでしっかりした若者」となっています。
♪ He was on the baseball team, he was in the marching band
♪ When he was ten years old he had a watermelon stand
♪ He was a clean-cut kid
♪ But they made a killer out of him,
♪ That's what they did
♪ 彼は野球のチームに入っていたし
♪ 楽隊の隊員だった
♪ 十歳の頃にはスイカ売りをやっていたんだ
♪ 彼はまじめでしっかりした若者だった
♪ だけどみんながよってたかって彼を殺人者に仕立て上げてしまった
♪ それが奴らのしたことさ
(中川五郎訳)
「アメリカの夢」に破れて死んでしまう男の歌です。
ヒヤリとする歌詞で、今の私はどうも戦争の連想ばかりしてしまいます。
その週は、週末にユージン・オニール(Eugene O'neill)の劇を観に行ったそうです。
ディランの劇評は散々です。
終わった時には嬉しかったとまで書いています。
→Eugene O'Neill Playwright 1888 - 1953
ディランが観に行ったのは「夜への長い旅路(Long Day's Journey into Night)」です。
オニールの自伝的作品で、完成したのは1940年なんですが、発表されたのは死後25年経ってからなんですね。
ディランは、登場人物たちを気の毒だと思ったが、心を動かされることはなかったと言っています。
不幸な家族の描写などはいたたまれない感じだったのでしょう。
日本で2000年に上演された公演の案内が見つかりました。
二度映画化されているようですが、私はどちらも観たことがありません。
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