ジョニーは戦場に行った CHRONICLES #147 [ボブ・ディラン『クロニクルズ』]
マクリーシュはディランに「ジョン・ブラウン」という曲が好きだと言いました。
1963年の曲ですが、アルバムに入ったのは1995年の"MTV Unplugged"が初めてなんでしょうか。
「この少年の歌なんかではない。本当はギリシャ古典劇だよね。母親というものの歌だ。さまざまな母が、この一曲の中に包み込まれている」
そんなことは一度も考えたことのないディランが、それは正しいかもしれないと、納得してしまいます。
まだ二十歳そこそこだったディランが一所懸命にジョン・ブラウンとその母親のことを考えて作った歌が、普遍性を持った詩になっていたということなんでしょう。
それが天才というものです。
あまり知られていない曲だと思うので、大意をメモしておきましょう。
上記オフィシャルサイトで試聴できます。
外国へ戦争に行ったジョンを、母親は自慢して回ります。
便りが届けば得意満面で近所に見せて歩きます。
ところが、便りが途絶えて十ヵ月ほどすると、負傷して帰還してきます。
顔はうたれて手はとばされて
腰にシンチューの輪をはめていた。
しずんだ声でささやいた ヘンな音の声だった
顔もおぼえのない姿!
(片桐ユズル訳)
息子の変わり果てた姿に驚く母親に、ジョンは動かない口で戦場を説明します。
息子を支える鉄の腰あてを見つめて動けなくなった母親の手に、ジョンは勲章を投げ入れます。
どうにもやりきれない歌ですが、確かに真実を歌っています。
今日本屋さんで岩波文庫の『読書のすすめ 第10集』をもらってきたのですが、冒頭の池澤夏樹さんがラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告』のことを書いていました。
> Aという土地の人々がBに行って
> そこにいた人々を殺す。それは
> いけないことである。その上に
> どんなに理屈を積み上げても認
> めることのできない悪である。
アフガニスタンやイラクで人を殺す米軍は悪なんです。
それが悪であることは、前線で殺される恐怖を味わい、そして人を殺したジョンが一番よくわかっていることでしょう。
アンクル・サム・ブッシュにそそのかされて戦争に行ったのは、やっぱり「ジョニー」なんですね。
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